情報はカネで買うな

交渉術より

カネには限界効用がない。一万円を貰うと、今度は十万円が欲しくなる。そして、それは百万円、一千万円と際限なく肥大していく。従って、カネが好きな情報提供者と付き合うと、どこかで必ず事故を起こす。
もっとも、インテリジェンスの仕事を五年もすれば、各情報提供者の首に値札がついているのが見えてくる。そして、相手が提供する情報に応じて、適切な対価を自然に支払うことができるようになる。この点について、モサド(イスラエル諜報特務局)の伝説的工作員だったウォルフガング・ロッツは次のように述べている。
〈どんな男も(事これに関しては、どんな女も)その人なりの値段がある、といういい古された言葉には多くの真理がある。私は賄賂のきかない官僚とか公務員にまだお目にかかったことがない。百ドルかそこいらの少額の心づけをマントルピースの上とか財布の中に慎み深く置いてやれば一夜妻になるご婦人でも、どこの街角でも二十ドルで拾えるような売春婦のことは蔑視するものである。ところが、そういうご婦人も、ミンクのコートやダイヤの腕輪、あるいはスポーツカーをがっちり要求する。“高級コールガール”には見下げられてしまう。同様に、当然のこととして定期的にリベートを受けとる大手百貨店の仕入れ部長に、それが賄賂であるというと、ひどく腹をたてるだろう。

(中略)


例えば、こちらが親しくなりたい相手に「友情の印ですのでどうぞ」と言って一万円を渡しても絶対に受け取らない。しかし、「この前、パリに休暇で行ってきたのですが、空港の免税店であなたに似合いそうなネクタイを見つけたので、どうぞ受け取ってください」と言って渡したら、九〇パーセントの確率で相手は受け取る。この場合、「買ってきた」という言葉を発しないことがコツである。「見つけた」とか、「手に入れた」という表現をすることだ。「買った」、「売っていた」など金銭を想起させる言葉を一切発しないことである。エルメスのネクタイならば三〜四万円はする。一万円の現金ならば受け取らない人も三万円のネクタイならば抵抗感なく受け取る。この辺の人間心理を衝くのだ。
もちろん、インテリジェンス工作に従事する人は善人ではない。従って、どこかの段階で「あんたは累計これだけの賄賂を受け取っているのだ」ということを相手に認識させなくてはならない。
P.113-P.115


人にモノをいただいたら、忘れずにキッチリとお返しをしましょう。
忘れると後で大変ですよ。