パラダイス鎖国〜忘れられた大国・日本〜

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)

パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本 (アスキー新書 54)


読了した。
率直な感想としてはいつもブログで拝見している通り「海部さんて、良い人なんだなー。日本が好きななんだ。」だった。そして巻末の解説にて梅田望夫さんも以下のように述べられていた

日本の現実を厳しく抉り出しながらも、海外在住者にありがちな「安直な批判的日本論」に堕していないのは、海部さんが日本や日本人に対して溢れんばかりの愛情を抱いているからである。
P.190

確かに随所に「愛情」の感じられる内容だった。そして、この作品の中にも「寛容」・「多様性」・「多元主義」が大切なキーワードとして使われていた。
内容的には、こうやって改めて指摘されると色々なところに「パラダイス鎖国」が形成されているのだなと気がつく。映画の話にしても、私自身も映画を観ることが好きで映画館の劇場情報をよくチェックしているが確かに「ハリウッドの大作」って作品は本当に最近は少なくなったと思う。シネコンの公開作品情報をみても並んでいるのは、邦画が中心で洋画は少ない。洋画好きの私には寂しい話だ。
本の中で例として使われているように、映画や音楽の話題でもって紹介されると「なるほど」と自分の身近な事として共感することができるが、そうでなければ「鎖国化」ってことに「何となく気がついているけど、認めたくない」「そんなの関係ない!」と思っている日本人の方が多いだろうと思う。
関係ないかも知れないが、京都に住んでいて最近の中心街を意識して観ていると、本当に観光客が増えたことを実感する。特にヨーロッパからの個人の旅行者の方々が増えたように感じる(話されている言語が英語じゃない)。それにアメリカなどの高校生の修学旅行生もよく見かける。これは一見、海外からの観光客を増やすとしている政府等の目標と努力の結果といえばそれまでだが、先日観たニュース番組でも海外からの旅行者が増加していると報道していた。そこで日本の印象を尋ねていたが、答えは「以前より気安くなった。物価がとても安い」であった。今までなら考えられない答えである。「日本の物価が安い!」なんで?円安だから!これで良いのか?良くない!「物価が安い」と感じて海外からの旅行者が増えるということは相当に日本の国力が落ちていることに繋がると考える。「パラダイス鎖国」っていう幸せな土地に住んで「内向きの考え」だけで生きていると本当に大切なものが何も見えなくなってくる。それは絶対に改善するべきだ。

てなことを読みながら考えていた。

後は自身の先日のエントリー2008-03-29 - Fere libenter homines id quod volunt creduntとも関連することだが、今の私の周囲の状況や考えと合致する点も数多くあった。その一部を引用する。自分の立場に置き換えてみた。思いあたることばかりだ。

外の環境が変化しても、企業の戦略や体質を変えることがなかなかできない。
(中略)
「暗黙の合意」が形成され、既存勢力でも反論しにくくなるまで待たなければならない。本来であれば、試行錯誤を繰り返しながら徐々に変わっていくべきものが、いつまでたっても変わらない。
 しかし潜在パワーが大きいので、そのエネルギーは「議論の分かれない」「衆目の一致する」分野に集中し(中略)衆目の一致しないことをやって失敗すればひどく叩かれるが、周りと同じことをやっていて失敗しても、「仕方がなかった」となる。
P.84

なんじゃそりゃ!って大いに思うが、これは今の大多数の「パラダイス鎖国」である病院・医院の現状じゃないかなと考える。これではダメなんだよね。
そしてこう続いている

まったく変わらないわけではないが、大変な時間とエネルギーを浪費している。現在の状況に必要以上に適応しすぎ、肥大化して、外界の変化についていけなくなってしまえば、行き着く先は「恐竜化」ということになる。
P.85

ズバリその通り!丸々太った恐竜の出来上がり。だけど周りに餌も無いし、ましてや大きく成り過ぎて取りにもいけない。どうしよう?ってな感じだ。

で、最後に勝手に私がエールとして受け取った一文が次だ

市場規模の大きい日本では、一点豪華主義の国と比べれば、特定の企業や産業にこだわり続ける必要性は小さい。それなりに大きく、洗練された生活者の多い国内市場で、いろいろな方法を試すことができる。試行錯誤方式は確かに、無駄も多く効率の悪いプロセスだが、まったく新しい産業を生み出す、ほぼ唯一の方法でもある。
 いまの日本なら、新しいものを作り出すための途中の無駄やコストを負担する余裕がまだある。その余裕すら失ってしまう前に、新しいものを作りだすための一歩を踏み出すべきなのだ。その段階を過ぎてしまったら、挽回にますます時間をエネルギーがかかる。

一方的だが、受け取った。今後の私の糧としたい一文だ。

大分、長くなってしまったが結論として、とても面白く中身の在る内容だった。

海部美知(id:michikaifu)氏の次回作にも期待する!ブログ(Tech Mom from Silicon Valley)も欠かさずチェック。