北方領土交渉秘録〜失われた五度の機会〜

北方領土交渉秘録―失われた五度の機会

北方領土交渉秘録―失われた五度の機会

佐藤優氏の「国家の罠」そして「自壊する帝国」と日ソ、日ロの戦後平和条約交渉にかかる著書を読み進め、今回佐藤氏の上司であり、日ソ・日ロ交渉に携われた東郷氏の著書を読了した。

この一冊は、東郷氏が実際に関わってこられた日ソ・日ロ交渉の記録であり戦後の日本外交のそのものでリアルな舞台裏が描かれている。
そして私の率直な感想は、せっかくゴルバチョフエリツィン・プーチンと着々と進めた時計の針を数十年も一気に元に戻した田中真紀子氏が登場しなければ・・・、という思いである。

佐藤氏の視点とはまた違った点から交渉の経緯を書かれているので新鮮さがあった。巻末の解説に佐藤氏もこう記されている

本書には、拙著「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」と共通の話題や出来事を描いている部分がある。率直に言って、東郷氏の視座の方が鳥瞰的だ。
かつて、ヘーゲルが「回想録の作者は高い地位についていなければならない。上にたってはじめて、ものごとを公平に万遍なく見わたせるので、下の小さい窓から見あげていては、事実の全体はとらえられないのです」との指摘があてはまるからだ。
同じ出来事について私のように個人に徹底的にこだわった視座からの物語と東郷氏の鳥瞰的視座からの物語をあわせて読むことで、読者は冷戦後の北方領土交渉を立体的に捉えることができると思う。

まさにその通りで、私も佐藤氏の著書の印象のままこの一冊を読むと所々での出来事に対してボリュームのなさを感じたり、また逆の事もあった。佐藤氏の人の内面の解説まで踏み込んだ先に挙げた二冊と、今回の東郷氏の国の立場大きな視点からの一冊とがそれぞれを補い合い、この三冊でかなり北方領土とは何かが理解できるだろう。
少なくとも私はそうであった。