正義の正体

正義の正体

正義の正体


「闇社会の守護神」こと田中森一氏と「外務省のラスプーチン」こと佐藤優氏の対談本。
互いに、ある日・ある時までは何の問題もなく順調に夫々の仕事を遂行され、一流の実績を上げてこられた両名。それがある時を境にして、逮捕され刑事被告人として過ごしていくことになった。そんなお二人の、人生の天国と地獄・社会の表と裏などの両極を体験してこられた両者の対談は読んでいて楽しいもので、またそこに込められている一つ一つの言葉は重たいものであった。

この中で私がこれはと感じたのは以下の部分だ。
第6章「わが体験的勉強法を明かす」の中で「人はなぜ勉強するのか」の項目での会話だ

佐藤:今の日本では教育問題があれこれ取りざたされてますが、僕の本音を言えば勉強することを面白いと感じられないのなら、無理して勉強なんかしなければいいと思うんです。大学は当然のことながら、高校だって
どうしてみんな行かなければいけないのかというのが僕の持論なんです。イヤな思いをしてまで学校なんか行かなくても立派な人生は送れます。

これに対し田中氏は次のように答えを返した。

田中:勉強というのは何も学校に行くことや本を読むことばかりじゃないからね。それ以外に自分が信じられる道、進みたい道があるんだとしたら、その道を極めることに集中したほうが絶対にいい。僕はたまたま自分が進んだ道を進むためには勉強をしなくてはいけなかったわけだけれど、もし他に信じられる道があったとしたらそんなレールからは簡単に外れていただろうと思うよ。

とあった。これを読んで「ピンッ!」ときたのは、梅田望夫氏の「ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)」の中で言われている「好き」を「貫く」って事の大切さと同じだと思った。田中氏、佐藤氏、梅田氏は三人とも全く異なる分野での職業をやってこられた訳だが、その全く別の三人の考えが「好き」を「貫く」てことで一致しているのは驚くと共に、「貫く」って事の重要性を再確認したのだった。

そしてもう一つ興味をそそられたのは、終章「対談を終えて」で田中氏が服役後(2008年2月12日付で最高裁は上告を棄却 懲役3年の実刑判決が確定)将来実現したい夢として「田中森一塾」()の話をされている。その中で田中氏が塾の運営についてこう言う

田中:僕の力でどこまでできるか分からないけれど、将来、いろんな人たちの賛助を得て「奨学財団 田中森一塾」を作っていこうと考えているわけよ。それが僕の今の夢。

それに対し佐藤氏はこんな提案を持ち出した。

佐藤:すごくいいですね。そこで一つ思うのは、まさにこの『反転』*1に出てくるような裏社会の人たちからも資金を募ればよいということです。誤解を恐れずに言えば、汚れたお金をキレイに使うことができる人だと思うんですよ、田中さんは。
日本ではあまり知られていないことですが、たとえばハーバード大学にはビン=ラディン奨学金というものがちゃんとあるんです。これはその名のとおり、オサマ・ビン・ラディンの一族が資金を提供しているんですが、ハーバードは堂々と資金提供を受けているわけですね。日本だってそれは可能だと思うんです。
日本人はヤクザを暴力団と決めつけているけれど、任侠道の世界の人たちの中には社会貢献をしたいと思っている人もいると思うんですよ。そういうところから遠慮なくお金を集める。言ってみれば、真逆のマネーロンダリングといった算段ですが、そうしていけば任侠の世界の人たちに対する偏見も払拭できるかもしれない。そして、田中さんにはそれを男気でやれる素地があると思う。

これには驚いた!ビン・ラディン関係のカネがハーバードに入っているとは!
だけど、佐藤氏の提案がもし実現すれば面白いかもしれないと思う。

と、上記のものが簡単な私の感想である。
だけど、今回何より驚いたのは、丁度この本を読み始めた頃に田中氏が今度は大阪地検特捜部に逮捕されたことだ。とてもタイムリーで驚いた。報道されている以上のことを私が知る由は無いが、色々と考える事はできる。
願わくば、田中氏が夢である「田中森一塾」を成功されることを心待ちにしたい。

*1:田中氏の著書 27万部発行